タイ航空、裁判による再生手続きの道を歩む

目次

  1. タイ航空、裁判による再生手続きの道を歩む
  2. 裁判による再生手続きとは
  3. 光栄だった歴史
  4. 利害が多くプロフェッショナル経営を欠く
  5. 危機と失敗
  6. 複数政党出身の閣僚で意見が別れ、再生計画に関する調停が困難
  7. 債務が2500億バーツ近く、そして、大債権者とは
  8. 5月の資金繰りすら困難


タイ航空、裁判による再生手続きの道を歩む

タイ首相を委員長とする国営企業政策管理委員会(SEPO)は、5月18日に、タイ航空の再建について裁判による再生手続きを申請する方向で固め、5月19日の内閣会議で正式に決定される見通し。長い間、経営不振で業績が不調だったタイ航空は、コロナ危機による運休に伴い、債務超過になる可能性が高く、5月末に必要なキャッシュすら不足すると予想され、ようやく裁判による再生手続きの道を歩むことになった。

タイ航空を救済する緊急案として、政府を保証人にする500億バーツの借り入れ計画がされていたが、事業が改善される見込みがないとして、内閣で審議してもらえなかった。また、財務省が一部の株式を政府系ファンドに売却して過半数以下にし、A型指定公社から外してタイ航空を持株会社にするという、民営化に近い計画もあったが、そのプロセスに伴い、解散されるタイ航空の労働組合から反対の表明がされ、実現が難航だった。


裁判による再生手続きとは

裁判による再生手続きは、アメリカでいう連邦倒産法第11章に相当する手段であり、債権者からの請求や差し押さえを一時保留させ、オペレーションが維持できるようになる。タイ中央倒産裁判が、債権者会議が選んだ専門家を再建計画立案者に任命し、再建計画の立案をさせる。債権者会議が再建計画を承認すると、裁判が再建計画実行者を任命し、再建計画を実行に移す。タイ航空の場合、具体的にどのような再建計画になるかは、まだ、引き続き注目する必要がある。

なお、航空機など海外に資産が多くあるタイ航空は、タイ中央破産裁判だけでなく、アメリカの裁判にも連邦倒産法第11章適用の申請をし、海外にある資産を差し押さえから守ることが予想される。


光栄だった歴史

タイ航空は、1960年に設立され、10年以内に、アジア全域への空路を開拓し、その後、すぐヨーロッパやアメリカへの空路を開拓した。30周年を迎えた1990年においては、税引き前の利益が6,753.6 バーツに上り、最も収益が高い公社となった。そして、さらなる発展を求め、当時のタイ政府は、1991年に、タイ航空を株式会社にし、株式市場に上場させた。IPO時には、256,000人の株主から140億バーツを調達できた。企業はよい方向に向かっていた。

また、空軍の天下りが社長(DD)となる伝統はあったが、1992年から軍部は社長の派遣を取り消し、タイ航空出身者がDDとなった。その後、1997年、アジアからの唯一の、スターアライアンス創設メンバーとして入り、タイを空路のハブにした。1999年、タイ航空生え抜き社長二代目、タマヌーンさんの時代では、112,020バーツの収入を計上し、タイ上場企業の中で最大となった。


利害が多くプロフェッショナル経営を欠く

好業績に伴い、社員やその家族への福祉も膨張した。社員、配偶者と子供の医療費無料、子供三人の教育費補助、社員配偶者と子供の無料航空券公布、親の航空券75%割引公布、空いているフライトの航空券を社員が10%で購入できる権利などがある。幹部クラスになると、7万バーツの車手当ても与えられ、そして、社員を首にすることも滅多にない。

また、経営関連の委員会も官僚出身者が多く、能力のない政治家絡みの人を委員によく派遣したりする。機動力も遅く、取締役会の意思決定も遅い。

取締役会は、15人によって構成され、警察、軍事、検察、官僚など、経営がわからない人も多い。一度、タイ航空の取締役になれると、一生往復便のビジネスチケットがもらえるベネフィットがある。(このベネフィットは、2014年に廃止された。)

2002年に、経営のプロフェッショナル化を目指し、一度、社外の専門経営者がDDに任命されたこともあるが、取締役会と折り合いがつかなく、うまく行かなかった。


危機と失敗

2000年からシンガポール航空がスターアライアンスに加盟し、唯一のアジア航空会社の立場を揺るがした。競争が過激化し、エコノミークラスで優勢だったが、ビジネスクラスでは負けた。

そして、最大の失敗が訪れた、週6回のバンコクーニューヨーク便と、週7回のバンコクーLA便には、平均的な搭乗客が100名未満で、損失が40億バーツに上った。その後、タイバーツ高、原油価格の高騰、格安航空会社の国内便参入などが相まって、給料や調達コストの高さが経営体質をすぐダメ出しにした。2013-2019年の間、ほとんど毎年100億バーツ以上の損失を計上し、2016年だけが利益計上できた。2015年において、政府は、一度、195.6億バーツの救済措置を実施したが、最終的には、持ち直すことができなかった。


複数政党出身の閣僚で意見が別れ、再生計画に関する調停が困難

タイ航空案件関連の閣僚が複数政党からの出身者であることも状況を複雑にした。タイ航空の筆頭株主である財務省を管理する財務大臣及び経済担当副首相は、第一与党のPPRP党出身であるのに対して、航空関連を担当する交通省の交通大臣及び交通担当副首相は、第三与党のプムジャイタイ党の出身で者である。さらに、タイ航空を直接担当する交通副大臣は、第二与党の民主党の出身者である。経済閣僚の財務大臣らは、一部の株式を政府系ファンドに売却する準民営化を実行し、融資保証をする案を提案したが、プムジャイタイ党や民主党系の閣僚は、民間がタイ航空の株式を31%保有することを懸念材料として、特定民間の支援にならないかということで裁判による再生を支持する。今後の具体的な再生計画については、調停の難航が見込まれている。


債務が2500億バーツ近く、そして、大債権者とは

債権者をグループごとに分類すると、

  • ・財務省及び政府系銀行、財務省が最大の債権者として110億バーツ程度海外の銀行から借り入れて、再融資をしている。政府系銀行としては、クルンタイ銀行が35億バーツ、イスラム銀行が20億バーツ、輸出入銀行が4億バーツである。
  • ・商業銀行全体で110億バーツ程度融資している。
  • ・社債、全体的にタイ航空の発行した社債は、741億バーツある。その中、政府系組織や公社の貯蓄組合74組合が、合計380億バーツ程度のタイ航空の社債を保有していて、例えば、タイ発電公社貯蓄組合が83億バーツ、地方送電公社PEAの貯蓄組合が28億バーツ、タマサート大学貯蓄組合が25億バーツを保有している。タイ航空の貯蓄組合も16億バーツの社債を保有していたが、タイ航空の危機が始まる時には、社員が引き出しに殺到していて、引き出し上限が設定されることになった。
  • ・海外取引先、21の海外銀行に対する32台の飛行機購入の債務契約が501億バーツ、そして、オペレーションリース契約をしている42台の飛行機オペレーションリース契約が1088億バーツにのぼる。  特に、タイ航空の社債デフォルトは、タイ市民の多くが利用している貯蓄組合、そして、一部の年金基金に対して大きな影響が予想される。


5月の資金繰りすら困難

タイ航空は、普段、100億バーツほどのキャッシュを持っていて、もし、借り入れ計画がまとまらなければ、5月末の給料支払いすら厳しくなる。負債資本比率が21倍にも上ったため、どの銀行も貸し出しせず、政府の債務保証が必要となる。

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